ERPの実データがAI研究の新たな地平を拓く
SAPは2024年、企業向けAIの進化を後押しするため、初のリアルなERP(Enterprise Resource Planning)データセット「Business Process Intelligence Data Collection(BPI Data Collection)」を公開しました。これは、エンタープライズ環境で実際に運用されたプロセスデータをもとにしており、業界初の試みとなります。
この公開は、AI研究コミュニティにとって大きな前進であり、機械学習・プロセスマイニング・ビジネスインテリジェンスの分野での新しい応用可能性を広げることが期待されています。
【背景:AI研究における実データの不足】
従来、学術機関やスタートアップ企業は、エンタープライズ分野のAIを開発・研究する際に大きな壁に直面していました。それは「実際のビジネスプロセスに基づいた高品質なデータ」の欠如です。
企業の機密保持や規制要件により、ERPデータは外部公開が極めて難しく、AIのトレーニングや検証に十分なデータセットが存在しませんでした。
【BPI Data Collectionの特徴】
- 実運用されたERPシステムから抽出
SAPの顧客企業から匿名化されたプロセスデータを取得。調達(Procure-to-Pay)や受注(Order-to-Cash)など、実際の業務プロセスに基づいたデータが含まれています。 - 多様な業種・プロセスを網羅
製造業、小売、医薬など、多様な業界のビジネスプロセスを網羅。これにより汎用性の高いAIモデル開発が可能になります。 - プロセスマイニングとの連携
SAP Signavioと連携することで、業務プロセスの可視化・最適化にAIを適用しやすくなっています。
【研究とイノベーションの促進】
このデータセットは、世界中の大学や研究機関に無償提供され、AI研究の活性化を狙っています。特に以下の研究領域に活用が期待されています:
- プロセスマイニングと業務改善
- ビジネスイベントの予測(例:納期遅延、支払遅延)
- 自然言語によるプロセス理解
- AIエージェントによる業務自動化
【SAPの狙いと今後の展望】
SAPは、この取り組みを「Responsible AI(責任あるAI)」の推進の一環と位置づけており、倫理的なAI設計や公平性の検証にもつなげたいとしています。
また、今後はより広範な業務領域をカバーするデータセットの公開や、業界パートナーとの共同研究を進める計画です。
【まとめ】
BPI Data Collectionの公開により、エンタープライズAIの研究と応用は新たなステージへと進みます。SAPは、企業データの透明性とオープンイノベーションの重要性を示しながら、持続可能なデジタル変革をリードする立場を確立しようとしています。
この動きは、今後のAI時代において「企業の知」を最大限に活用するための基盤となるでしょう。